小さな世界 第4話


「・・・うう。やっぱり恥ずかしかった」

戦利品を開封しながら、スザクは頬を赤らめ、項垂れていた。
開封しているのはドールハウス。
とはいえ、流石に家を買ったのではなく、細かな家具を買ってきたようだった。
ベッドやイス、食器。運よくどれもルルーシュに丁度いいサイズだ。
それらを順に開封するスザクは相変わらず眉を下げていて、先に開封した人形用の衣服に袖を通しながらルルーシュは首を傾げた。

「何が恥ずかしいんだ?」

どうやら人形の服は彼には大きいらしく、袖をまくってはいるが、身につけるのに支障は無さそうだった。

「恥ずかしいだろ?もうすぐ20歳になる男が人形の家具とか服とか買うなんて」

スザクの必死の訴えにも、ルルーシュは意味が解らないと首をかしげた。

「・・・君は平気なの?こういうの買うの」
「よく買っていたからな」

さも当たり前のように言うので、スザクは目を見開いた。見た目は男だが、趣味嗜好は少女なのだろうか?そうは見えないけど。
それとも小人の世界では、男が買ってもおかしくは無いのだろうか。
疑いの眼差しをむけると、ふんわりと柔らかい笑顔で、彼が笑った。

「妹が好きなんだ」

あ、そう言う意味か。
妹とか姪っ子とか従妹とかそう言う理由で買うのであれば、確かに恥ずかしくは無い。
ああ!プレゼント用って言って梱包してもらうんだった!
スザクは今さらその方法に気づき、更に落ち込み、ルルーシュはその様子を不思議そうに首を傾げながら見ていた。
どうやら彼の妹は、動物の家族が暮らすシリーズものが特に好きらしく、よく買ってあげるのだと言う。
動物のシリーズ物はここでも年齢問わずに根強い人気がある。小人の世界もこことあまり変わらないんだなと、家具を組み立て、食器類を洗った。
時計を見るとそろそろ正午、お昼だ。
スザクはいそいそと食事の用意を始めた。
小さなマグカップに紅茶を注ぎ、小さな皿にホットケーキを一欠けら。その横にクリームを添えて、別の皿には少量のポテトサラダ。

「これでいいかな」
「ああ、ありがとう」

そう言うと、彼は椅子に腰かけ、テーブルに向かった。もちろん人形用の家具だ。 人形用のフォークとナイフを使い、ホットケーキを切り、クリームを乗せて口にする。その所作が優美で、思わず見とれてしまった。本当に物語に出てくる王子様そのものだ。

「・・・甘いな」

どうやらクリームが甘すぎたらしい

「まあ、クリームパンのクリームだから、甘いよ」

しかもコンビニで買ってきたパンだから味も濃い。僕はそのクリームパンに齧りつきながらそう言った。うん、甘い。
彼用に買ったホットケーキにはメイプルシロップがついていたが、僕の食べてたクリームパンに興味を示したため添えてみた。残念ながら彼の口には合わなかったらしい。僕は別の皿に、ホットケーキについていたメイプルシロップを開け、スプーンで彼の皿に少量入れた。

「ところで、君、あの箱に入る前の事何か覚えてるの?」
「覚えているが?」

何を当たり前な事をと言いたげに、彼はこちらを見上げた。

「え?じゃあ、どうしてあの箱に?」
「ああ、そう言う意味か。それは覚えていないな。殴られた後意識を無くしたらしい」
「殴られたって、誰に!?」

やはりあの痣は暴行の跡だったんだ。
スザクはじっとルルーシュを見つめると、どうやら思わず口が滑ってしまったらしい彼は、目を背けた。

「ルルーシュ」
「話した所で意味は無い」
「意味はあるよ。君をまた狙うかもしれないじゃないか」
「まあ、その可能性はあるが」

そういうと、カップを傾けて紅茶を口にした。

「・・・甘いな」

そして眉を顰める。

「ロイヤルミルクティーだしね」

僕は自分が飲んでいたペットボトルを振った。

「甘いものが好きなのか?」
「どちらかといえば苦手かな?」

童話のイメージで小人の食事=甘い物だったのだが、どうやら違うらしい。
紅茶が飲みたいと言うので、こちらも甘そうなものを選んだのだ。

「今度は無糖のストレートティ買ってくるよ。で、やっぱり狙われる可能性あるんだ」
「まあな。もし俺が生きていると知れば、今度は確実に殺しに来るだろうな」

物騒な事を口にするので、僕は眉を寄せた。
殺されると言う直接的な話しを平然と口にするが、その顔に焦りも恐怖もない。
大袈裟に言っているだけなのか、良くあることなのか。
勘に従うなら後者。
よく命を狙われているのだ。

「君、何したのさ」

思わず詰問するような口調で尋ねた。

「何と言われてもな」
「何かあるから狙われるんだろ?」

その僕の言葉に、ルルーシュは困ったように笑った。

「そうだな。強いて言うなら、俺がこうして産まれてきた事が理由だな」

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